ながめて時のたつのをもどかしがる姫君であるが、時のたち日の暮れていくのを真底からわびしがっておいでになる方のお気持ちが反映して、はかなく日の暮れてしまった気もした。ただ二人きりでおいでになって、春の一日の間見ても飽かぬ恋人を宮はながめてお暮らしになったのである。欠点と思われるところはどこにもない愛嬌《あいきょう》の多い美貌《びぼう》で女はあった。そうは言っても二条の院の女王には劣っているのである。まして派手《はで》な盛りの花のような六条の夫人に比べてよいほどの容貌ではないが、たぐいもない熱情で愛しておいでになるお心から、まだ過去にも現在にも見たことのないような美人であると宮は思召した。姫君はまた清楚《せいそ》な風采《ふうさい》の大将を良人《おっと》にして、これ以上の美男はこの世にないであろうと信じていたのが、どこもどこもきれいでおありになる宮は、その人にまさった美貌の方であると思うようになった。
硯《すずり》を引き寄せて宮は紙へ無駄《むだ》書きをいろいろとあそばし、上手《じょうず》な絵などを描《か》いてお見せになったりするため、若い心はそのほうへ多く傾いていきそうであった。
「逢いに
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