やがやと話しながら門をはいって来たのを、女房らは片腹痛がり、見えぬ所へはいっているように言ってやりなどしていた。右近はどうすればいいことであろう、殿様が来ておいでになると言っても、あれほどの大官が京から離れていることはだれの耳にもはいっていることであろうからと思い、他の女房と相談することもせず手紙を常陸《ひたち》夫人へ書くのであった。
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昨夜からお穢《けが》れのことが起こりまして、お詣《まい》りがおできになれなくなりましたことで残念に思召《おぼしめ》すのでございましたが、その上昨晩は悪いお夢を御覧になりましたそうですから、せめて今日一日を謹慎日になさいませと申しあげましたのでお引きこもりになっておられます。返す返すお詣りのやまりましたことを私どもも残り惜しく思っております。何かの暗示でこれはあるいは実行あそばさないほうがよいのかとも存ぜられます。
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これが済んでから右近は常陸家の人々に食事をさせたりした。弁の尼のほうにもにわかに物忌《ものいみ》になって出かけぬということを言ってやった。
平生はつれづれで退屈で、かすんだ山ぎわの空ばかりを
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