に信じて、
「深いお志からの御微行でしたわね。ひどい目におあいになったりあそばしてお気の毒なんですのに、お姫様は事情をご存じないようですね」
などと賢がっている女もあった。
「静かになさいよ。夜は小声の話ほどよけいに目に立つものですよ」
こんなふうに仲間に注意もされてそのまま寝てしまった。
姫君は夜の男が薫でないことを知った。あさましさに驚いたが、相手は声も立てさせない。あの二条の院の秋の夕べに人が集まって来た時でさえ、この人と恋を成り立たせねばならぬと狂おしいほどに思召した方であるから、はげしい愛撫《あいぶ》の力でこの人を意のままにあそばしたことは言うまでもない。初めからこれは闖入《ちんにゅう》者であると知っていたならば今少し抵抗のしかたもあったのであろうが、こうなれば夢であるような気がするばかりの姫君であった。女のやや落ち着いたのを御覧になって、あの秋の夕べの恨めしかったこと、それ以来今日まで狂おしくあこがれていたことなどをお告げになることによって、兵部卿《ひょうぶきょう》の宮でおありになることを姫君は知った。いよいよ羞恥《しゅうち》を覚えて、姉の女王がどうお思いになるであろ
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