うと思うともうどうしようもなくなった人はひどく泣いた。宮も今後会見することは不可能であろうと思召《おぼしめ》されるためにお泣きになるのであった。
夜はずんずんと明けていく。お供の人たちが注意を申し上げるように咳払いなどをする。右近がそれを聞いて用をするためにおいでになる所の近くへ来た。宮は別れて出てお行きになるお気持ちにはなれず、どこまでもお心の惹《ひ》かれるのをお覚えになったが、そうかといってこのままでおいでになることもおできにならないことであった。京で捜されまわるようなことはあっても、今日だけはここに隠れていよう、世間をはばかるということもよく生きようがためである、自分は今別れて行けば死ぬことになるとお心をおきめになった宮は、右近を近くへお呼びになって、
「思いやりのないことと思うだろうが、今日は帰りたくない。従者らはここに近いどこかでよく人目を避けて時間を送るように。それから時方《ときかた》は京へ行って山寺へ忍んで参籠《さんろう》していると上手《じょうず》にとりなしをしておけと言ってくれるがいい」
と仰せられた。右近はあさましさにあきれて、何の気なしに大将であると思い、戸をあ
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