時にはなることでしょうから」
 と言い、皆も縫いさした物をまとめて几帳《きちょう》の上に懸《か》けたりなどして、そのままそこへうたた寝のふうに横たわってしまった。姫君も少し奥のほうへはいって寝た。右近は北側の室へはいって行ったがしばらくして出て来た。そして姫君の閨《ねや》の裾《すそ》のほうで寝た。眠がっていた人たちであったから、皆すぐに寝入った様子を見てお置きになった宮は、そのほかに手段はないことであったから、そっと今まで立っておいでになった前の格子をおたたきになった。右近は聞きつけて、
「だれですか」
 と言った。咳払いをあそばしただけで貴人らしい気配《けはい》を知り、薫《かおる》の来たと思った右近が起きて来た。
「ともかくもこの戸を早く」
 とお言いになると、
「思いがけません時間においでになったものでございますね。もうよほど夜がふけておりましょうのに」
 右近はこう言った。
「どこかへ行かれるのだと仲信《なかのぶ》が言ったので、驚いてすぐに出て来たのだが、よくないことに出あったよ。ともかくも早く」
 声を薫によく似せてお使いになり、低く言っておいでになるのであったから、違った人で
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