とも言っている。
「どうしてまま[#「まま」に傍点]をここまで来させたのでしょう。あちらへ置いて来るべき人をね。老人というものはよけいなことまでも考え出すものだのに」
 右近のにがにがしそうにこう言うのは、乳母というような人の悪口かとも聞こえた。そうだ、差し出者がいたのだったとお思い出しになる宮は夢を見ている気があそばされた。女たちは聞く者が恥ずかしくなるようなことまで言い合って、
「二条の院の奥様はほんとうに御幸福な方ね。左大臣様は権力にまかせて大騒ぎになるのだけれど、若様がお生まれになってからは女王《にょおう》様の御|寵愛《ちょうあい》が図抜けてきたのですもの。まま[#「まま」に傍点]のようなうるさい人がおそばにいないでゆったりと上品に奥様らしく皆がおさせしているのがいい効果を見せたのですよ」
「殿様さえ奥様を深くお愛しになれば、こちらもお劣りになるものですか」
 こんなことの言われた時、姫君は少し起き上がって、
「醜いことは言わないでね。よその人には劣らない人になりたいとか何とか思っても、女王様のことに私などを引き合いに出して言わないでね。もしあちらへ聞こえることがあれば恥ずかし
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