ましてもよろしくございません」
 と、また言うと、それと向き合っている女が、
「そう申し上げてお置きになりませんではいけませんね。お詣《まい》りをなさいますことをね。軽々しくそっとお外出をなさいますことも今はもうよろしくないと思います。そしてお詣りが済めばすぐにおもどりなさいまし。ここは心細いお住居《すまい》のようですが、気楽で、のんびりとした日送りに馴《な》れましたから、お宅はかえって旅の宿のような気がして苦しゅうございましょうよ」
 とも言う。また一人が、
「まあ当分はお動きにならずに、殿様の思召しのままここでごしんぼうをしていらっしゃるのがおおようで、お品のいいことではないでしょうか。京へお呼び寄せになりましたあとで穏やかに親御様にもお逢《あ》いあそばすことになさいませよ。まま[#「まま」に傍点]さんが性急《せっかち》ですからね、急にお詣りをおさせしてお宅のほうへもお寄りさせようと、こんなことを独《ひと》りぎめにきめてお宅へ言ってあげたのがよくないと思います。昔の人だって今の人だってもよくしんぼうをして気のゆるやかに持てる人が最後の勝利を占めていると私は思うのですよ」
 こんなこ
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