心してふさがないでおいたものらしい。几帳《きちょう》の垂帛《たれ》を上へ掛けて、それがまた横へ押しやられてあった。灯を明るくともして縫い物をしている女が三、四人いた。美しい童女は糸を縒《よ》っていたが、宮はその顔にお見覚えがあった。あの夕べの灯影《ほかげ》で御覧になった者だったのである。思いなしでそう見えるのかとお疑われにもなったが、また右近とその時に呼ばれていた若い女房も座に見えた。主君である人の、肱《かいな》を枕《まくら》にして灯《ひ》をながめた眼《め》つき、髪のこぼれかかった額つきが貴女《きじょ》らしく艶《えん》で、西の対の夫人によく似ていた。宮のお見つけになった右近は服地に折り目をつけるために身をかがめながら、
「お宅へお帰りになりましたら、早くおもどりになることは容易ではございませんでしょうが、殿様は除目《じもく》にお携わりになったあとで、来月の初めには必ずおいでになりましょうと、昨日の使いも申しておりました。お手紙にはどう書いていらっしったのでございますか」
 と言っていたが、姫君は返辞もせず物思わしいふうをしている。
「おいでになります時にわざとおはずしになったようになり
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