たりまではお車で、それから馬をお用いになったのである。
急いでおいでになったため、宮は九時ごろに宇治へお着きになった。内記は山荘の中のことをよく知った右大将家の人から聞いていたので、宿直《とのい》の侍の詰めているほうへは行かずに、葦垣《あしがき》で仕切ってある西の庭のほうへそっとまわって、垣根を少しこわして中へはいった。聞いただけは知っていたが、まだ来たことのない家であって、たよりない気はしながら、人の少ない所であるため、庭をまわり、寝殿の南に面した座敷に灯《ひ》のほのかにともり、そこにそよそよと絹の触れ合う音を聞いて行き、宮へそう申し上げた。
「まだ人は起きているようでございます。ここからいらっしゃいまし」
と内記は言い、自身の通った路へ宮をお導きして行った。静かに縁側へお上がりになり、格子に隙間《すきま》の見える所へ宮はお寄りになったが、中の伊予簾《いよすだれ》がさらさらと鳴るのもつつましく思召《おぼしめ》された。きれいに新しくされた御殿であるが、さすがに山荘として作られた家であるから、普請《ふしん》が荒くて、戸に穴の隙《すき》などもあったのを、だれが来てのぞくことがあろうと安
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