段はないから、あそこへ行って、ちょっとした隙間《すきま》からのぞくようにして見定めたいと思うのだ。それを少しも人に気《け》どらせないでする方法はどういうふうにすればいいだろう」
 宮はこうお言いになるのであった。めんどうの多い仰せであるとは思うのであるが、
「宇治へおいでになりますのには荒い山越しの路《みち》を行かねばなりませんが、距離にいたせばさほど遠いわけではございません。夕方お出ましになれば夜の十時ごろにはお着きになることができましょう。そして夜明けにお帰りになればよろしいでしょう。人に秘密を悟られますのは供の口から洩《も》れるのが多いのでございますが、それも侍たちの性質などはちょっとわかりかねますから、人選がむずかしいのでございます」
 と申した。
「そうだ。宇治へは昔も一、二度行った経験がある。軽率なことをすると言われることで遠慮がされるのだよ」
 とお言いになりながら返す返すもしてよい行動ではないと自身のお心をおさえようとされたのであるが、もうこんなことまで言っておしまいになったあとではおやめになることができなくなり、お供には昔もよく使いに行き、宇治の山荘の勝手をよく知った
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