では言った。少将と右近とは目くばせをして、夫人は片腹痛く思うであろうと言っているのは姫君のために気の毒なことである。
 夫人は心で残念なことになった、薫《かおる》が相当熱心になって望んでいた妹であったのに、そんな過失をしたことが知れるようになれば軽蔑《けいべつ》するであろう、宮という放縦なことを常としていられる方は、ないことにも疑念を持ちうるさくお責めにもなるが、また少々の悪いことがあってもぜひもないようにおあきらめになりそうであるが、あの人はそうでなく、何とも言わないままで情けないことにするであろうのを思うと、妹はどんなに気恥ずかしいことかしれぬ、運命は思いがけぬ憂苦を妹に加えることになった、長い間見ず知らずだった人なのであるが、逢《あ》って見れば性質も容貌《ようぼう》もよく、愛せずにはいられなくなった妹であったのに、こんなことが起こってくるとはなんたることであろう、人生とは複雑にむずかしいものである、自分は今の身の上に満足しているものではないが、妹のような辱《はずか》しめもあるいは受けそうであった境遇にいたにもかかわらず、そうはならずに正しく人の妻になりえた点だけは幸福と言わねばな
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