になる方なものですか」
と言い、楽観させようと努めた。
宮はすぐお出かけになるのであった。そのほうが御所へ近いからであるのか西門のほうを通ってお行きになるので、ものをお言いになるお声が姫君の所へ聞こえてきた。上品な美しいお声で、恋愛の扱われた故《ふる》い詩を口ずさんで通ってお行きになることで、煩わしい気持ちを姫君は覚えていた。お替え馬なども引き出して、お付きして宿直《とのい》を申し上げる人十数人ばかりを率いておいでになった。
中の君は姫君がどんなに迷惑を覚えていることであろうとかわいそうで、知らず顔に、
「中宮《ちゅうぐう》様の御病気のお知らせがあって、宮様は御所へお上がりになりましたから、今夜はお帰りがないと思います。髪を洗ったせいですか、気分がよくなくてじっとしていますが、こちらへおいでなさい。退屈でもあるでしょう」
と言わせてやった。
「ただ今は身体《からだ》が少し苦しくなっておりますから、癒《なお》りましてから」
姫君からは乳母を使いにしてこう返事をして来た。どんな病気かとまた中の君が問いにやると、
「何ということはないのですが、ただ苦しいのでございます」
とあちら
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