仔細《しさい》のありそうにおっしゃいますのね。人がどんなに悪く解釈するかもしれないようなことにわざとしてお話しなさいます。『なき名は立てで』(ただに忘れね)」
と言って、顔をそむける夫人は可憐《かれん》で美しかった。そのまま寝室に宮は朝おそくまで寝《やす》んでおいでになったが、伺候者が多数に集まって来たために、正殿のほうへお行きになった。
中宮《ちゅうぐう》の御病気はたいしたものでなくすぐ快くおなりになったことにだれも安心して、まいっていた左大臣家の子息たちなどもごいっしょに碁を打ち韻塞《いんふたぎ》などしてこの日を暮した。
夕方に宮が西の対へおいでになった時に、夫人は髪を洗っていた。女房たちも部屋《へや》へそれぞれはいって休息などをしていて、夫人の居間にはだれというほどの者もいなかった。小さい童女を使いにして、
「おりの悪い髪洗いではありませんか。一人ぼっちで退屈をしていなければならない」
と宮は言っておやりになった。
「ほんとうに、いつもはお留守の時にお済ませするのに、せんだってうちはおっくうがりになってあそばさなかったし、今日が過ぎれば今月に吉日はないし、九、十月はいけな
前へ
次へ
全90ページ中45ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング