いことになるしと思って、おさせしたのですがね」
 と大輔は気の毒がり、若君も寝ていたのでお寂しかろうと思い、女房のだれかれをお居間へやった。
 宮はそちらこちらと縁側を歩いておいでになったが、西のほうに見|馴《な》れぬ童女が出ていたのにお目がとまり、新しい女房が来ているのであろうかとお思いになって、そこの座敷を隣室からおのぞきになった。間《あい》の襖子《からかみ》の細めにあいた所から御覧になると、襖子の向こうから一尺ほど離れた所に屏風《びょうぶ》が立ててあった。その間の御簾《みす》に添えて几帳が置かれてある。几帳の垂《た》れ帛《ぎぬ》が一枚上へ掲げられてあって、紫苑《しおん》色のはなやかな上に淡黄《うすき》の厚織物らしいのの重なった袖口《そでぐち》がそこから見えた。屏風の端が一つたたまれてあったために、心にもなくそれらを見られているらしい。相当によい家から出た新しい女房なのであろうと宮は思召して、立っておいでになった室《へや》から、女のいる室へ続いた庇《ひさし》の間《あい》の襖子をそっと押しあけて、静かにはいっておいでになったのをだれも気がつかずにいた。
 向こう側の北の中庭の植え込み
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