で将来のことは私に保証ができないのだから、そう言われるとどうしてよいかわからない」
と歎息をしたままでその話はしなくなった。
夜が明けると車などを持って来て、常陸守の帰りを促す腹だたしげな、威嚇《いかく》的な言葉を使いが伝えたため、
「もったいないことですが、万事あなた様をお頼みに思わせていただきまして、あの方をお手もとへ置いてまいります。『いかならん巌《いはほ》の中に住まばかは』(世のうきことの聞こえこざらん)とばかり苦しんでおります間だけを隠してあげてくださいませ。哀れな人と御覧くださいまして、教えられておりませんことをお教えくださいませ」
などと、昔の中将の君は夫人に泣きながら頼んでおいて帰って行こうとした。姫君は母に別れていたこともない習慣から心細く思うのであったが、はなやかな貴族の家庭にしばらくでも混じって行けるようになったことはさすがにうれしかった。
常陸夫人の車の引き出されるころは少し明るくなっていたが、ちょうどこの時に宮は御所からお帰りになった。若君に心がお惹《ひ》かれになるために御微行の体で車なども例のようでなく簡単なのに召しておいでになったのと行き合って、常
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