なたが尼にさせようかなどとも思っておいでになるのなら、その気で試みてごらんになったらどう」
「つらい思いも味わわせず、人に軽蔑《けいべつ》もさせたく思いません心から、鶏《とり》の声も聞こえませぬような僧房住まいをおさせする気になっていたのですが、大将さんをはじめてお見上げして、ああした方にはたとえ下《しも》仕えにでも御奉公できますことは生きがいがあることと思われましてございます。年のいった者でもそう思うのですから、まして若い人はあの方に好感を持つことだろうと思われますものの、相手がごりっぱであればあるだけ卑下がされまして、物思いの種を心に蒔《ま》かせることになりはしないでしょうかと苦労に考えられます。身分の高低にかかわらず、女というものはねたましがらせられることで、この世のため、未来の世のために罪ばかりを作ることになるものだと思いますと、それがかわいそうでございます。しかし何も皆あなたの思召《おぼしめ》し次第でございます。どんなにでもお定《き》めになって、お世話をくださいませ」
 と常陸夫人の言うのを聞いていて、中の君は重い責任を負わされた気がして、
「今までの親切な心を知っているだけ
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