おいのかんばしさを口にしては誇張したわざとらしいことにさえなるであろうと思われた。おりおり見る人さえもそのたびごとにほめざるを得ない薫であったのである。
「お経をたくさん読んだ人に、その報いの現われてくることの書いてある中に、芳香を身体《からだ》に持つということを最高のものに仏様が書いておありになるのも道理だと思われますね。薬王品《やくおうぼん》などにも特にそれが書いてありますね。牛頭栴檀《ごずせんだん》の香とかこわいような名だけれど、私たちは大将様にお近づきできることで仏様のお言葉に嘘《うそ》のないことをわからせていただきました。御幼少の時から仏勤めをよくあそばしたからよ」
「でもこの世だけの信仰の結果とは思われませんね。どんな前生を持っていらっしゃったのか、それが知りたくなりますわ」
などとも言って口々にほめるのを、常陸《ひたち》夫人は知らず知らず微笑して聞いていた。中の君はそっと薫に託された話をした。
「一度お思いになったことは執拗《しつよう》なほどにもお忘れにならない、まれな頼もしい性質でね。それは今はまあ御新婚された時などで、めんどうが多い気もあなたはするでしょうけれど、あ
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