た。この人の言っているように長い時間を隔ててなお恋の続いているわけはない、これは熱愛するようにその昔に言い始めたことであったから、忘れていぬふうを装うのではないかと女王《にょおう》は疑ってもみたが、人の心は外見にもよく現われてくるものであるから、しばらく見ているうちに、この人の故人への思慕の情が岩木でない人にはよくわかるのであった。この人を思う心も縷々《るる》と言われるのに中の君は困っていて、恋の心をやめさせる禊《みそぎ》をさせたい気にもなったか、人型《ひとがた》の話をしだして、
「このごろはあの人、そっとこの家《うち》に来ています」
とほのめかすと、男もそれをただごととして聞かれなかった。牽引力《けんいんりょく》のそこにもあるのを覚えたが、にわかにそちらへ恋を移す気にこの人はなれなかった。
「でもその御本尊が私の願望を皆受け入れてくださるのであれば尊敬されますがね。いつも悩まされてばかりいるようでは、信仰も続きませんよ」
「まあ、あなたの信仰ってそれくらいなのですね」
ほのかに中の君の笑うのも薫には美しく聞かれた。
「では完全に私の希望をお伝えください。御自身の一時のがれの口実だ
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