大将の入来を人が知らせに来た。居室にいた女房たちはいつものように几帳《きちょう》の垂《た》れ絹を引き直しなどして用意をした。姫君の母は、
「では私ものぞかせていただきましょう。少しお見かけしただけの人が、たいへんにおほめしていましたけれど、こちらの宮様のお姿とは比較すべきではございますまい」
と言っていたが、女房たちは、
「さあ、どうでしょう。どちらがおすぐれになっていらっしゃるか私たちにはきめられませんわね」
こんなことを言う。中の君が、
「二人で向かい合っていらっしゃるのを見た時、宮はうるおいのない醜《わる》いお顔のようにお見えになった。別々に見れば優劣はない方がたのように見えるのだけれど、美しい人というものは一方の美をそこねるものだから困るのね」
と言うと、人々は笑って、
「けれど宮様だけはおそこなわれにならないでしょう。どんな方だって宮様にお勝ちになる美貌《びぼう》を持っておいでになるはずはございませんもの」
などと言うころ、客は今下車するのであるらしく、前駆の人払いの声がやかましく立てられていたが、急には薫《かおる》の姿がここへ現われては来なかった。
待ち遠しく人々
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