くお話し申し上げることもいたしまして、始終おそばにまいっていたい心になりましたけれど、家《うち》のほうではわんぱくな子供たちのおおぜいが、私のおりませんのを寂しがって騒いでいることかと思いますと、さすがに気が落ち着きません。ああした階級の家へはいってしまいましたことで、私自身も情けなく思うことが多いのでございますから、この方だけはあなた様の思召《おぼしめ》しにお任せいたしますから、どうとも将来のことをお定《き》めくださいまし」
 この常陸夫人の頼みを聞いて、中の君も、この人の言うとおり妹は地方官級の人の妻などにさせたくないと思っていた。姫君は容貌《ようぼう》といい、性質といい憎むことのできぬ可憐《かれん》な人であった。ひどく恥ずかしがるふうも見せず、感じよく少女らしくはあるが機智《きち》の影が見えなくはない。夫人の居室に侍している女房たちに見られぬように、上手《じょうず》に顔の隠れるようにしてすわっていた。ものの言いようなども総角《あげまき》の姫君に怪しいまでよく似ているのであった。あの人型《ひとがた》がほしいと言った人に与えたいとその人のことが中の君の心に浮かんだちょうどその時に、右
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