に女は独身で置いてくれないのが世の中の慣《なら》いで一生一人でいるようにとお父様が定《き》めておいでになった私でさえ、自分の意志でなしにこうして人妻になっているのだから、まして無理なことですよ。尼にさせることもあまりにきれいで惜しい人ですよ」
中の君が姉らしくこう言うのを聞いて常陸《ひたち》夫人は喜んでいた。年はいっているがりっぱできれいな顔の女であった。肥《ふと》り過ぎたところは常陸さんと言われるのにかなっていた。
「お亡くなりになりました宮様が子としてお認めくださらなかったために、みじめな方はいっそうみじめなものになって、人からもお侮《あなど》られになると悲しがっておりましたが、あなた様へお近づきいたしますのをお許しくださいまして、御親切な身のふり方まで御心配くださいますことで、昔の宮様のお恨めしさも慰められます」
そのあとで常陸さんはあちらこちらと伴われて行った良人《おっと》の任国の話をし、陸奥《むつ》の浮嶋《うきしま》の身にしむ景色《けしき》なども聞かせた。
「あの『わが身一つのうきからに』(なべての世をも恨みつるかな)というふうに悲しんでばかりいました常陸時代のことも詳し
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