おいのかんばしさを口にしては誇張したわざとらしいことにさえなるであろうと思われた。おりおり見る人さえもそのたびごとにほめざるを得ない薫であったのである。
「お経をたくさん読んだ人に、その報いの現われてくることの書いてある中に、芳香を身体《からだ》に持つということを最高のものに仏様が書いておありになるのも道理だと思われますね。薬王品《やくおうぼん》などにも特にそれが書いてありますね。牛頭栴檀《ごずせんだん》の香とかこわいような名だけれど、私たちは大将様にお近づきできることで仏様のお言葉に嘘《うそ》のないことをわからせていただきました。御幼少の時から仏勤めをよくあそばしたからよ」
「でもこの世だけの信仰の結果とは思われませんね。どんな前生を持っていらっしゃったのか、それが知りたくなりますわ」
 などとも言って口々にほめるのを、常陸《ひたち》夫人は知らず知らず微笑して聞いていた。中の君はそっと薫に託された話をした。
「一度お思いになったことは執拗《しつよう》なほどにもお忘れにならない、まれな頼もしい性質でね。それは今はまあ御新婚された時などで、めんどうが多い気もあなたはするでしょうけれど、あなたが尼にさせようかなどとも思っておいでになるのなら、その気で試みてごらんになったらどう」
「つらい思いも味わわせず、人に軽蔑《けいべつ》もさせたく思いません心から、鶏《とり》の声も聞こえませぬような僧房住まいをおさせする気になっていたのですが、大将さんをはじめてお見上げして、ああした方にはたとえ下《しも》仕えにでも御奉公できますことは生きがいがあることと思われましてございます。年のいった者でもそう思うのですから、まして若い人はあの方に好感を持つことだろうと思われますものの、相手がごりっぱであればあるだけ卑下がされまして、物思いの種を心に蒔《ま》かせることになりはしないでしょうかと苦労に考えられます。身分の高低にかかわらず、女というものはねたましがらせられることで、この世のため、未来の世のために罪ばかりを作ることになるものだと思いますと、それがかわいそうでございます。しかし何も皆あなたの思召《おぼしめ》し次第でございます。どんなにでもお定《き》めになって、お世話をくださいませ」
 と常陸夫人の言うのを聞いていて、中の君は重い責任を負わされた気がして、
「今までの親切な心を知っているだけ
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