しもの通ひは絶ゆるものかは
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薫はこう言った。恋の心は深いと言われてさえ頼みにならぬものであるのに、上は浅いと認めて言われるのに女は苦痛を覚えなかったはずはない。妻戸を薫はあけて、
「この夜明けの空のよさを思って早く出て見たかったのだ。こんな深い趣を味わおうとしない人の気が知れないね、風流がる男ではないが、夜長を苦しんで明かしたのちの秋の黎明《れいめい》は、この世から未来の世のことまでが思われて身にしむものだ」
こんなことを紛らして言いながら薫は出て行った。女を喜ばそうとして上手《じょうず》なことを多く言わないのであるが、艶《えん》な高雅な風采《ふうさい》を備えた人であるために、冷酷であるなどとはどの相手も思っていないのであった。仮なように作られた初めの関係を、そのままにしたくなくて、せめて近くにいて顔だけでも見ることができればというような考えを持つのか、尼になっておいでになる所にもかかわらず、縁故を捜してこの宮へ女房勤めに出ている人々はそれぞれ身にしむ思いをするものらしく見えた。
兵部卿の宮は式のあったのちの日に新夫人を昼間御覧になることによって、いっ
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