ない娘で、この世をお愛しにもならぬ父宮を唯一の頼みにしてあの寂しい宇治の山荘に長くいたのであるが、いつとなくそれにも馴《な》れ、徒然《つれづれ》さは覚えながらも、今ほど身にしむ悲しいものとは山荘時代の自分は世の中を知らなかった。父宮と姉君に死に別れたあとでは片時も生きていられないように故人を恋しく悲しく思っていたが、命は失われずあって、軽蔑《けいべつ》した人たちが思ったよりも幸福そうな日が長く続くものとは思われなかったが、自分に対する宮の態度に御誠実さも見え、正妻としてお扱いになるのによって、ようやく物思いも薄らいできていたのであるが、今度の新しい御結婚の噂《うわさ》が事実になってくるにしたがい、過去にも知らなんだ苦しみに身を浸すこととなった、もう宮と自分との間はこれで終わったと思われる、人の死んだ場合とは違って、どんなに新夫人をお愛しになるにもせよ、時々はおいでになることがあろうと思ってよいはずであるが、今夜こうして寂しい自分を置いてお行きになるのを見た刹那《せつな》から、過去も未来も真暗《まっくら》なような気がして心細く、何を思うこともできない、自分ながらあまりに狭量であるのが情け
前へ
次へ
全123ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング