可憐《かれん》な夫人を見て出かけるお気持ちにはならず、気の毒に思召す心からいろいろに将来の長い誓いをさせるのであるが、中の君の慰まない様子をお知りになり、誘うていっしょに月をながめておいでになる時に使いの頭中将は二条の院へ着いたのである。夫人は今までも煩悶《はんもん》は多くしてきたが、外へは出して見せまいとおさえきってきていて、素知らぬふうを作っていたのであるから、今夜に何事があるかも聞かずおおようにしているのを哀れにお思いになる宮であった。頭中将の来たのをお聞きになると、さすがに宮はあちらの人もかわいそうにお思われになり、お出かけになろうとして、
「すぐ帰って来ます。一人で月を見ていてはいけませんよ。気の張り切っていない時などには危険で心配だから」
とお言いになり、きまりの悪いお気持ちで隠れた廊下から寝殿へお行きになった。お後ろ姿を見送りながら中の君は枕《まくら》も浮き上がるほどな涙の流れるのをみずから恥じた。恨めしい宮に愛情を覚えるのは恥ずかしいことであるとしていたのに、いつかそのほうへ自分は引かれていって、恨みの起こるのもそれがさせるのであると悟ったのである。幼い日から母の
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