われて、母宮のおいでになる所では物思いのないふうを装っていた。
左大臣家では東の御殿をみがくようにもして設備《しつら》い婿君を迎えるのに遺憾なくととのえて兵部卿《ひょうぶきょう》の宮をお待ちしているのであったが、十六夜《いざよい》の月がだいぶ高くなるまでおいでにならぬため、非常にお気が進まないらしいのであるから将来もどうなることかと不安を覚えながらも使いを出してみると、夕方に御所をお出になって二条の院においでになるというしらせがもたらされた。愛する人を持っておいでになるのであるからと不快に大臣は思ったが、今夜に済まさねば世間体も悪いと思い、息子《むすこ》の頭《とうの》中将を使いとして次の歌をお贈りするのであった。
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大空の月だに宿るわが宿に待つ宵《よひ》過ぎて見えぬ君かな
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宮はこの日に新婚する自分を目前に見せたくない、あまりにそれは残酷であると思召《おぼしめ》して御所においでになったのであるが、手紙を中の君へおやりになった、その返事がどんなものであったのか、宮が深くお動かされになって、そっとまた二条の院へおはいりになったのである。
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