になっている右京大夫《うきょうだゆう》を呼んで、
「昨夜宮様が御所からお出になったと聞いて伺ったのですが、まだ御帰邸になっておられないので失望をしました。御所へまいってお目にかかったらいいでしょうか」
と言った。
「今日はお帰りでございましょう」
「ではまた夕方にでも」
薫はそして二条の院を出た。中の君の物越しの気配《けはい》に触れるごとに、なぜ大姫君の望んだことに自分はそむいて、思慮の足らぬ処置をとったのであろうと後悔ばかりの続いて起こるのを、なぜ自分はこうまで一徹な心であろうと薫は反省もされた。この人はまだ精進を続けて仏勤めばかりを家ではしているのである。母宮はまだ若々しくたよりない御性質ではあるが、薫のこうした生活を危険なことと御覧になって、
「私はもういつまでも生きてはいないのでしょうから、私のいる間は幸福なふうでいてください。あなたが仏道へはいろうとしても、私自身尼になっていながらとめることはできないのだけれど、この世に生きている間の私はそれを寂しくも悲しくも思うことだろうから、結局罪を作ることになるだろうからね」
とお言いになるのが、薫にはもったいなくもお気の毒にも思
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