てくるものなのであろう、悲しみにも時が限りを示すものであると私はその時見ました。こう私は言っていましても昔の悲しみは少年時代のことでしたから、悲痛としていても悲痛がそれほど身にしまなかったのかもしれません。近く見ました悲しみの夢は、まだそれからさめることもどうすることもできません。どちらも死別によっての感傷には違いありませんが、親の死よりも罪深い恋人関係の人の死のほうに苦痛を多く覚えていますのさえみずから情けないことだと思っています」
こう言って泣く薫に、にじみ出すほどな情の深さが見えた。大姫君を知らず、愛していなかった人でも、この薫の悲しみにくれた様子を見ては涙のわかないはずもないと思われるのに、まして中の君自身もこのごろの苦い物思いに心細くなっていて、今まで以上にも姉君のことが恋しく思い出されているのであったから、薫の憂いを見てはいっそうその思いがつのって、ものを言われないほどになり、泣くのをおさえきれずになっているのを薫はまた知って、双方で哀れに思い合った。
「世の憂《う》きよりは(山里はものの寂しきことこそあれ世の憂きよりは住みよかりけり)と昔の人の言いましたようにも私はまだ
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