比べて考えることもなくて京に来て住んでおりましたが、このごろになりましてやはり山里へはいって静かな生活をしたいということがしきりに思われるのでございます。でも思ってもすぐに実行のできませんことで弁の尼をうらやましくばかり思っております。今月の二十幾日はあすこの山の御寺《みてら》の鐘を聞いて黙祷《もくとう》をしたい気がしてならないのですが、あなたの御好意でそっと山荘へ私の行けるようにしていただけませんでしょうかと、この御相談を申し上げたく私は思っておりました」
と中の君は言った。
「宇治をどんなに恋しくお思いになりましてもそれは無理でしょう。あの道を辛抱《しんぼう》して簡単に御婦人が行けるものですか。男でさえ往来するのが恐ろしい道ですからね、私なども思いながらあちらへまいることが延び延びになりがちなのです。宮様の御忌日のことはあの阿闍梨《あじゃり》に万事皆頼んできました。山荘のほうは私の希望を申せば仏様だけのものにしていただきたいのですよ。時々行っては痛い悲しみに襲われる所ですから、罪障消滅のできますような寺にしたいと私は思うのですが、あなたはどうお考えになりますか。あなたの御意見によ
前へ
次へ
全123ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング