。お居間に侍している女房の数も多くなくて、姫君は今静かに絵などを御覧になっているところであった。几帳《きちょう》だけを隔てにしてお二方はお話しになった。限りもない気品のある貴女《きじょ》らしさとともに、なよなよとした柔らかさを備えたもうた姫宮を、この世にこれ以上の高華な美を持つ女性はなかろうと、昔から兵部卿の宮は思っておいでになって、これに近い人というのは冷泉《れいぜい》院の内親王だけであろうと信じておいでになり、世間から受けておいでになる尊敬の度も、御容姿も、御|聡明《そうめい》さも人のお噂する言葉から想像されて、宮の覚えておいでになる院の宮への恋を、なんらお通じになる機会というものがなく、しかも忘れる時なく心に持っておいでになる兵部卿の宮なのであるが、あの宇治の山里の人の可憐《かれん》で高い気品の備わったところなどは、これらの最高の貴女に比べても劣らないであろうと、姉君のお姿からも中の君が聯想《れんそう》されて、恋しくてならず思召す心の慰めに、そこに置かれてあったたくさんな絵を見ておいでになると、美しい彩色絵の中に、恋する男の住居《すまい》などを描いたのがあって、いろいろな姿の山里
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