違っているのに、今一人の女王を自分に娶《めと》らせようと当の人がされるのをうれしくなく思うところから、宮とその方とを結ばせてしまった。今思うとそれは軽率なことであった。二人とも自分の妻にしても非難する人はなかったはずである、今さら取り返されるものではないが、愚かしい行動をしたと煩悶《はんもん》をしているのである。
宮はまして宇治の女王《にょおう》がお心にかからぬ時とてもなかった。恋しくお思いになり、知らぬまにどんなことになっているかもしれぬという不安もお覚えになるのである。
「非常にお気に入った人がおありになるのだったら、私の女房の一人にしてここへ来させて、目だたない愛しようをしていればいいでしょう。あなたは東宮様、二の宮さんに続いて特別なものとして未来の地位をお上《かみ》はお考えになっていらっしゃるのですから、軽率な恋愛問題などを起こして、人から指弾されるのはよろしくありませんからね」
こんなふうに中宮《ちゅうぐう》は始終御忠告をあそばされるのであった。
はげしく時雨《しぐれ》が降って御所へまいる者も少ない日、兵部卿の宮は姉君の女一《にょいち》の宮《みや》の御殿へおいでになった
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