人の数は多かった。
 必ず女王《にょおう》たちの山荘へお寄りになることを信じている薫から、
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宮のお供をして相当な数の客が来ることを考えてお置きください。先年の春のお遊びに私と伺った人たちもまた参邸を望んで、不意にお訪《たず》ねしようとするかもしれません。
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 などとこまごま注意をしてきたために、御簾《みす》を掛け変えさせ、あちこちの座敷の掃除《そうじ》をさせ、庭の岩蔭《いわかげ》にたまった紅葉《もみじ》の朽ち葉を見苦しくない程度に払わせ、小流れの水草をかき取らせなど女王はさせた。薫のほうからは菓子のよいのなども持たせて来、また接待役に出す若い人たちも来させてあった。こんなにもする薫の世話を平気で受けていることは気づらいことに姫君は思っていたが、たよるところはほかにないのであるから、こうした因縁と思いあきらめて好意を受けることにし、兵部卿の宮をお迎えする用意をととのえた。
 遊びの一行は船で河《かわ》を上り下りしながらおもしろい音楽を奏する声も山荘へよく聞こえた。目にも見えないことではなかった。若い女房らは河に面した座敷のほうから皆のぞいて
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