うようになった薫は、しいて内密事とはせずに、このごろも冬の衣がえの季節になっているが、自分のほかにだれがその仕度《したく》に力を貸すものがあろうと思いやって、御帳《みちょう》の懸《か》け絹、壁代《かべしろ》などというものは、三条の宮の新築されて移転する準備に作らせてあったから、それらを間に合わせに使用されたいというふうに伝えて宇治へ送った。またいろいろな山荘の女房たちの着用するものも自身の乳母《めのと》などに命じて公然にも製作させた薫であった。
 十月の一日ごろは網代《あじろ》の漁も始まっていて、宇治へ遊ぶのに最も興味の多い時であることを申して中納言が宮をお誘いしたために、兵部卿の宮は紅葉見《もみじみ》の宇治行きをお思い立ちになった。宮にお付きしていて親しく思召《おぼしめ》される役人のほかに殿上役人の中で特に宮のお愛しになる人たちだけを数にして微行のお遊びのつもりであったのであるが、大きな勢いを負っておいでになる宮でおありになったから、いつとなくたいそうな催しになっていき、予定の人数のほかに左大臣家の宰相中将がお供申し上げた。高官としては源中納言だけが随《したが》いたてまつった。殿上役
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