。女一《にょいち》の宮《みや》もこんなのでおありになるのであろう、どんな機会によって自分はこれほど一の宮へ接近することができるであろう、お声だけでも聞きうることができようと、幼い日からのあこがれが今またこの人の心を哀れにさせた。好色な人が思うまじき人を思うことになるのも、こうした間柄で、さすがにある程度まで近づくことが許されていて、しかもきびしい隔てがその中に立てられているというような時に、苦しみもし、悶《もだ》えもするのであろう、自分のように異性への関心の淡いものはないのであるが、それでさえもなお動き始めた心はおさえがたいものなのであるから、などと薫は思っていた。侍女たちは容貌《ようぼう》も性情も皆すぐれていて、欠点のある者は少なく、どれにもよいところが備わり、また中には特に目だつほどの人もあるが、恋のあやまちはすまいと決めているから、薫は中宮の御殿に来ていてもまじめにばかりしていた。わざとこの人の目につくようにふるまう人もないのではない。気品を傷つけないようにと上下とも慎み深く暮らす女房たちにも、個性はそれぞれ違ったものであるから、美しい薫への好奇心が、おさえられつつも外へ現われて
前へ
次へ
全126ページ中60ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング