見える人などに、薫は憐《あわ》れみも感じ、心の惹《ひ》かれそうになることがあっても、何事も無常の人世なのであるからと冷静に考えては見ぬふりを続けた。
宇治では薫から大形《おおぎょう》な使いなどもよこされてあるのに、深更まで宮はお見えにならず、お手紙の使いだけの来たために、これであるから頼もしい方とは思われなかったのであると、姉女王が煩悶《はんもん》していたうちに、夜中近くなって、荒い風の吹き立つ中に、兵部卿の宮は艶《えん》なにおいを携えて、美しいお姿をお見せになったのであったから、喜びを覚えないわけもない。新夫人の中の君も前に似ぬ好意をお持ちしたことと思われる。中の君は非常に美しい盛りの容貌《ようぼう》を、まして今夜は周囲の人たちによってきれいに粧《よそお》われていたのであったから、また類《たぐい》もない麗人と思われた。多くの美女を知っておいでになる宮の御目にも欠点をお見いだしになることはなくて、姿も心も接近してますますすぐれたことの明らかになった恋人であると思召すばかりであったから、山荘の老いた女房などは満足したか自身の表情がどんなに醜いかも知らずに、ゆがんだ笑顔《えがお》をしなが
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