すふうで仰せられるのを見て、お気の毒になった薫は、
「どうせ同じことでございますから、今晩のあなた様の罪は私が被《き》ることにいたしましょう、どんな犠牲もいといません。木幡《こばた》の山に馬はいかがでございましょう(山城の木幡の里に馬はあれど徒歩《かち》よりぞ行く君を思ひかね)いっそうお噂《うわさ》は立つことになりましても」
こう申し上げた。夜はますます暗くなっていくばかりであったから、忍びかねて宮は馬でお出かけになることになった。
「お供にはかえって私のまいらぬほうがよろしゅうございましょう。私は宿直《とのい》することにいたしまして、あなた様のために何かと都合よくお計らいいたしましょう」
と言って、薫は残ることにした。
薫が中宮の御殿へまいると、
「兵部卿の宮さんはお出かけになったらしい。困った御行跡ね。お上《かみ》がお聞きになれば必ず私がよく忠告をしてあげないからだとお思いになってお小言をあそばすだろうから困るのよ」
こうお后《きさき》は仰せになった。多くの宮様が皆|大人《おとな》になっておいでになるのであるが、御母宮はいよいよ若々しいお美しさが増してお見えになるのであった
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