もして聞いてもらいますよ。知らぬ私をあまりに恨んではあなたが罪を作ることになります」
と姫君が中の君の髪を繕いながら言ったのに対して、中の君は何とも返辞はしなかったが、さすがに、こうまで自分を愛して言う姉君であるから、危険な道へ進めようとしたわけではあるまい、そうであるにもかかわらず、薄い愛より与えぬ人の妻になって、自分のために姉君へまた新しい物思いをさせることが悲しいと、今後の日を思って歎いていた。
闖入《ちんにゅう》者に驚きあきれていた夜の顔さえ美しい人であったのにまして、今夜は美しい服を着け、化粧の施されている女王を宮は御覧になって、いっそうこまやかに御愛情の深まっていくにつけても、たやすく通いがたい長い路《みち》が中を隔てているのを、胸の痛くなるほどにも苦しく思召《おぼしめ》されて、真心から変わらぬ将来の誓いをされるのだったが、姫君はまだ自身の愛のわいてくるのを覚えなかった。わからないのであった。非常に大事にかしずかれた高貴な姫君といっても、世間というものと今少し多く交渉を持っていて、親とか兄弟とかの所へ出入りする異性があったなら、羞恥《しゅうち》心などもこれほどになくて済
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