と夜の明けるのにうながされて兵部卿の宮は昨夜《ゆうべ》の戸口から外へおいでになった。柔らかなその御動作に従って立つ香はことさら用意して燻《た》きしめておいでになった匂宮らしかった。
老いた女房たちはそことここから薫の帰って行くことに不審をいだいたが、これも中納言の計ったことであれば安心していてよいと考えていた。
暗い間に着こうと京の人は道を急がせた。帰りはことに遠くお思われになる宮であった。たやすく常に行かれぬことを今から思召《おぼしめ》すからである。しかも「夜をや隔てん」(若草の新手枕《にひてまくら》をまきそめて夜をや隔てん憎からなくに)とお思われになるからであろう。まだ人の多く出入りせぬころに車は六条院に着けられ、廊のほうで降りて、女乗りの車と見せ隠れるようにしてはいって来たあとで顔を見合わせて笑った。
「あなたの忠実な御奉仕を受けたと感謝しますよ」
宮はこう冗談《じょうだん》を仰せられた。自身の愚かしさの人のよさがみずから嘲笑《ちょうしょう》されるのであるが、薫は昨夜の始末を何も申し上げなかった。すぐ宮は文《ふみ》を書いて宇治へお送りになった。
山荘の女王はどちらも夢を見
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