ですよ」
 と言って姫君は応じない。愛人を新しくする際に虚心平気でそれをするのでないことをこの人は言おうとするのであろうか、今までからこんなふうにしては話し合った間柄なのだから、あまり冷ややかにものを言わぬようにして、そして夜をふかさせずに立ち去らしめようと思い、この席を姫君は与えたのであったが、襖子の間から女の袖《そで》をとらえて引き寄せた薫は、心に積もる恨みを告げた。困ったことである、話すことをなぜ許したのであろうと後悔がされ、恐ろしくさえ思うのであるが、上手《じょうず》にここを去らせようとする心から、妹は自分と同じなのであるからということを、それとなく言っている心持ちなどを男は哀れに思った。
 兵部卿の宮は薫がお教えしたとおりに、あの夜の戸口によって扇をお鳴らしになると、弁が来て導いた。今一人の女王のほうへこうして薫を導き馴《な》れた女であろうと宮はおもしろくお思いになりながら、ついておいでになり、寝室へおはいりになったのも知らずに、大姫君は上手《じょうず》に中の君のほうへ薫を行かせようということを考えていた。おかしくも思い、また気の毒にも思われて、事実を知らせずにおいていつまで
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