情けなく思われたあの夜からは、姉君をも以前ほどに信頼せず、油断をせぬ覚悟はしていた。取り次ぎをもっての話がいつまでもかわされていることで、今夜もどうなることかと女房らは苦しがった。
 薫は使いを出して兵部卿の宮を山荘へお迎え申してから、弁を呼んで、
「姫君にもう一言だけお話しすることが残っているのです。あの方が私の恋に全然取り合ってくださらないのはもうわかってしまいました。それで恥ずかしいことですが、この間の方の所へもうしばらくのちに私を、あの時のようにして案内して行ってくださいませんか」
 真実《まこと》らしく薫がこう言うと、どちらでも結局は同じことであるからと弁は心を決めて、そして大姫君の所へ行き、そのとおりに告げると、自分の思ったとおりにあの人は妹に恋を移したとうれしく、安心ができ、寝室へ行く通り路《みち》にはならぬ縁近い座敷の襖子《からかみ》をよく閉《し》めた上で、その向こうへしばらく語るはずの薫を招じた。
「ただ一言申し上げたいのですが、人に聞こえますほどの大声を出すこともどうかと思われますから、少しお開《あ》けくださいませんか。これではだめなのです」
「これでもよくわかるの
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