らい、兵部卿の宮を宇治へお伴いして出かけた。御母|中宮《ちゅうぐう》のお耳にはいっては、こうした恋の御微行などはきびしくお制しになり、おさせにならぬはずであったから、自分の立場が困ることになるとは思うのであるが、匂宮《におうみや》の切にお望みになることであったから、すべてを秘密にして扱うのも苦しかった。
 対岸のしかるべき場所へ御休息させておくことも船の渡しなどがめんどうであったから、山荘に近い自身の荘園の中の人の家へひとまず宮をお降ろしして、自身だけで女王たちの山荘へはいった。宮がおいでになったところで見とがめるような人たちもなく、宿直《とのい》をする一人の侍だけが時々見まわりに外へ出るだけのことであったが、それにも気《け》どらすまいとしての計らいであった。中納言がおいでになったと山荘の女房たちは皆緊張していた。女王《にょおう》らは困る気がせずにおられるのではないが、総角の姫君は、自分はもうあとへ退《の》いて代わりの人を推薦しておいたのであるからと思っていた。中の君は薫の対象にしているのは自分でないことが明らかなのであるから、今度はああした驚きをせずに済むことであろうと思いながらも、
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