入れ申し上げなかったのである。思いもよらずその人に近づいたことによって、今は不安も心からぬぐわれた薫は、大姫君がわざわざ謀って身代わりにさせようとした気持ちを無視することも思いやりのないことではあるが、そのようにたやすく恋は改めうるものとは思われない心から、まずその人は宮にお任せしよう、そして女の恨みも宮のお恨みも受けぬことにしたいとこう思い決めたともお知りにならず、自分がはばんでいるようにお言いになるのがおかしかった。
「あなたには多情な癖がおありになるのですからね、結局物思いをさせるだけだと考えられますからです」
 女がたの後見者と見せて薫がこう言う。
「まあ見ていたまえ、私にはまだこんなに心の惹《ひ》かれた相手はなかったのだからね」
 宮はまじめにこう仰せられた。
「女王がたにはまだあなたさまを婿君にお迎えする心がなさそうなものですから、私の役は苦心を要するのでございますよ」
 と言って、薫は山荘へ御案内して行ってからのことをこまごまと御注意申し上げていた。
 二十六日の彼岸の終わりの日が結婚の吉日になっていたから、薫はいろいろと考えを組み立てて、だれの目にもつかぬように一人で計
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