になりましょう。必ずもう清浄な世界においでになると私は思っているのですが、先日の夢にお見上げすることができまして、それはまだ俗のお姿をしていられまして、人生を深くいとわしい所と信じていたから、執着の残ることは何もなかったのだが、少し心配に思われる点があって、今しばらくの間志す所へも行きつかずにいるのが残念だ。こうした私の気持ちを救うような方法を講じてくれとはっきりと仰せられたのですが、そうした場合に速く何をしてよろしいか私にはよい考えが出ないものですから、ともかくもできますことでと思いまして、修行の弟子《でし》五、六人にある念仏を続けさせております。それからまた気づきまして常不軽《じょうふきょう》の行ないに弟子を歩かせております」
こんなことを言うのを聞いて薫は非常に泣いた。父君の成仏《じょうぶつ》の道の妨げをさえしているかと病女王もそれを聞いて、そのまま息も絶えんばかりに悲しんだ。ぜひとも父君がまだ冥府《めいふ》の道をさまよっておいでになるうちに自分も行って、同じ所へまいりたいと思うのであった。阿闍梨は多く語らずに座を立って行った。
この常不軽の行《ぎょう》はこの辺の村々をはじめ
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