「心ではあなたのおいでになったことがわかっていながら、ものを言うのが苦しいものですから失礼いたしました。しばらくおいでにならないものですから、もうお目にかかれないままで死んで行くのかと思っていました」
息よりも低い声で病者はこう言った。
「あなたにさえ待たれるほど長く出て来ませんでしたね、私は」
しゃくり上げて薫は泣いた。この人の頬《ほお》に触れる髪の毛が熱で少し熱くなっていた。
「あなたはなんという罪な性格を持っておいでになって、人をお悲しませになったのでしょう。その最後にこんな病気におなりになった」
耳に口を押し当てていろいろと薫が言うと、姫君はうるさくも恥ずかしくも思って、袖《そで》で顔をふさいでしまった。平生よりもなおなよなよとした姿になって横たわっているのを見ながら、この人を死なせたらどんな気持ちがするであろうと胸も押しつぶされたように薫はなっていた。
「毎日の御|介抱《かいほう》が、御心配といっしょになってたいへんだったでしょう。今夜だけでもゆっくりとお休みなさい。私がお付きしていますから」
見えぬ蔭にいる中の君に薫がこう言うと、不安心には思いながらも、何か直接に話
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