との間の御簾《みす》を吹き上げそうになったため、
「お客様のいらっしゃる時にいけませんわね、そのお几帳をここに立てて、十分に下を張らせたらいいでしょう」
と言い出した女房がある。愚かしいことだとみずから思いながらもうれしさに心をおどらせて、またのぞくと、高いのも低いのも几帳は皆その御簾ぎわへ持って行かれて、あけてある東側の襖子から居間へはいろうと姫君たちはするものらしかった。その二人の中の一方が庭に向いた側の御簾から庇《ひさし》の室越《まご》しに、薫の従者たちの庭をあちらこちら歩いて涼をとろうとするのをのぞこうとした。濃い鈍《にび》色の単衣《ひとえ》に、萱草《かんぞう》色の喪の袴《はかま》の鮮明な色をしたのを着けているのが、派手《はで》な趣のあるものであると感じられたのも着ている人によってのことに違いない。帯は仮なように結び、袖口《そでぐち》に引き入れて見せない用意をしながら数珠《じゅず》を手へ掛けていた。すらりとした姿で、髪は袿《うちぎ》の端に少し足らぬだけの長さと見え、裾《すそ》のほうまで少しのたるみもなくつやつやと多く美しく下がっている。正面から見るのではないが、きわめて可憐《
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