女性であるが、あちらに愛情の生まれるまでは力ずくがましい結婚はしたくないと思い、故人の宮への情誼《じょうぎ》を重く考える点で女王《にょおう》の心が動いてくるようにと願っているのであった。
 その夏は平生よりも暑いのをだれもわびしがっている年で、薫も宇治川に近い家は涼しいはずであると思い出して、にわかに山荘へ来ることになった。朝涼のころに出かけて来たのであったが、ここではもうまぶしい日があやにくにも正面からさしてきていたので、西向きの座敷のほうに席をして髭侍《ひげざむらい》を呼んで話をさせていた。
 その時に隣の中央の室《へや》の仏前に女王たちはいたのであるが、客に近いのを避けて居間のほうへ行こうとしているかすかな音は、立てまいとしているが薫の所へは聞こえてきた。このままでいるよりも見ることができるなら見たいものであると願って、こことの間の襖子《からかみ》の掛け金の所にある小さい穴を以前から薫は見ておいたのであったから、こちら側の屏風《びょうぶ》は横へ寄せてのぞいて見た。ちょうどその前に几帳《きちょう》が立てられてあるのを知って、残念に思いながら引き返そうとする時に、風が隣室とその前の室
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