かれん》で、はなやかで、柔らかみがあっておおような様子は、名高い女一《にょいち》の宮《みや》の美貌《びぼう》もこんなのであろうと、ほのかにお姿を見た昔の記憶がまたたどられた。いざって出て、
「あちらの襖子は少しあらわになっていて心配なようね」
 と言い、こちらを見上げた今一人にはきわめて奥ゆかしい貴女《きじょ》らしさがあった。頭の形、髪のはえぎわなどは前の人よりもいっそう上品で、艶《えん》なところもすぐれていた。
「あちらのお座敷には屏風《びょうぶ》も引いてございます。何もこの瞬間にのぞいて御覧になることもございますまい」
 と安心しているふうに言う若い女房もあった。
「でも何だか気が置かれる。ひょっとそんなことがあればたいへんね」
 なお気がかりそうに言って、東の室《ま》へいざってはいる人に気高《けだか》い心憎さが添って見えた。着ているのは黒い袷《あわせ》の一|襲《かさね》で、初めの人と同じような姿であったが、この人には人を惹《ひ》きつけるような柔らかさ、艶《えん》なところが多くあった。また弱々しい感じも持っていた。髪も多かったのがさわやいだ程度に減ったらしく裾のほうが見えた。その色
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