自由意志で決まるだけであると見ておいでになって、宮は引き続き誠意を書き送っておいでになった。女のほうではこの相手に対しては短いお返事も書きにくいように思っていた。好色な風流男というお名が拡《ひろ》まっていて、好奇心からいいようにばかり想像をしておいでになる方へ、はなやかな世間とは没交渉のような侘《わ》び居をするものが、出す返事などはどんなに時代おくれなものと見られるかしれぬと歎《たん》じているのであった。
 いつとなくたってしまうのは月日でないか、人生のはかなさ脆《もろ》さを知りながらも、自分らに悲しい日の近づいているものとも知らずに、ただ一般的に頼みがたいものは人生であるとしていて、親子三人が別々な時に死ぬるものともせず、滅ぶのはいっしょであるような妄想《もうそう》を持ち、それをまた慰めにもしていた過去を思ってみても幸福な世を自分らは持っていたのではないが、父君がおいでになるということによって、何とない安心が得られ、他から威《おど》す者もない、他を恐れることもないとして生きていた、それが今日では風さえ荒い音をして吹けば心がおびえるし、平生見かけない人たちが幾人も門をはいって来て案内を
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