ないかと歎かれた。
別段普通の貴人めいた装飾がしてあるのでもなく簡素にお住まいをしておいでになったが、いつも浄《きよ》く掃除《そうじ》の行き届いた山荘であったのに、荒法師たちが多く出入りして、ちょっとした隔ての物を立てて臨時の詰め所をあちこちに作っているような家に今はなっていた。念誦《ねんず》の室《へや》の飾りつけなどはもとのままであるが、仏像は向かいの山の寺のほうへ近日移されるはずであるということを聞いた薫は、こんな僧たちまでもいなくなったあとに残る女王たちの心は寂しいことであろうと思うと、胸さえも痛くなって、その人たちが憐《あわ》れまれてならない。
「もう非常に暗い時刻になりました」
と従者が告げて来たために、外をながめていた所から立ち上がった時に雁《かり》が啼《な》いて通った。
[#ここから2字下げ]
秋霧の晴れぬ雲井にいとどしくこの世をかりと言ひ知らすらん
[#ここで字下げ終わり]
薫の歌である。
兵部卿《ひょうぶきょう》の宮に薫がお逢《あ》いする時にはいつも宇治の姫君たちが話題の中心になった。反対されるかもしれぬ父君の親王もおいでにならなくなって、結婚はただ女王の
前へ
次へ
全52ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング