のものですが、それがまた人を動かす力は少なくないのですね。だから女は罪が深いとされているのでしょう。親として子の案ぜられる点でも、男の子はさまで親を懊悩《おうのう》させはしないだろうが、女はどうせ女で、親が何と思っても宿命に従わせるほかはないのでしょうが、それでも愍然《ふびん》に思われて、親のためには大きな羈絆《きはん》になりますよ」
 と抽象論としてお言いになる言葉を聞いてもお道理至極である、どんなに女王《にょおう》がたを御心配になっておられるかということが薫にわかるのであった。
「あなた様のお教えのとおりに、私も苦しい羈絆を持つまいと決心してまいりましたせいですか、自身にはそうした苦しい親心というものを経験いたしませんが、ただ一つ私には音楽という愛着の覚えられるものがございまして、それによって遁世《とんせい》もできずにおります。賢明な迦葉《かしょう》もやはりそんな心があって舞をしたりしたものでしょうか」
 などと言って、いつぞや少し聞いた琴と琵琶の調べを今一度聞きたいと熱心に宮へお願いする薫であった。
 家族と薫を親しくさせる第一歩にそれをさせようと思召すのか、宮は御自身で女王たち
前へ 次へ
全52ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング